加齢性難聴
先日、とある患者さんから電話があり
「昨日海外旅行から帰ってきたけど、疲れて疲れて何とかして!」
80歳を超える女性で、普段からジムに通ったり毎年海外旅行に行かれたり、活動的な方なのですが長年の「肩こり」持ちです。
お話を伺っていると、普段から補聴器は使ってはいるけれども、旅行中ずっと聞き取りにくくて何度も聞き返さないといけなかったとか…
一緒に行かれたご友人からも、今回は
「何度も、よく聞き返すね。」と言われたとのこと。
施術中はいつも補聴器は外されて、私との会話には全く不自由は感じられない程度の「難聴」なのですが。
触診すると、いつもよりまして首周り、肩周りの凝りが強い。
加えて、耳自体(耳介といいます)が「硬い」のです。
そもそも、人はどのようにして音を感じて、聴こえているのか。
音の振動が鼓膜を震わせ、耳小骨(つち・きぬた・あぶみ)がその振動を30~60倍に大きくして、蝸牛という器官に伝えます。
この耳小骨は、それぞれがわずか3㎜程度の小さな骨ですが、3つの骨が組み合わさり、大きすぎる音は小さく、小さい音は大きくなるように調節して伝えてくれています。
この鼓膜や耳小骨を中耳とよび、蝸牛は内耳の一部です。
この蝸牛の中に、感覚毛をもつ有毛細胞が1万5千個あり、音の振動がその感覚毛を揺らして有毛細胞を興奮させ、その興奮が電気的な刺激に変換されて聴神経に伝わります。
その刺激が脳に届くことで、「聴こえて」います。
ところが、老化と共にこの有毛細胞の感覚毛が傷んだり、抜けたりして、有毛細胞が壊れて数が減ってしまいます。
この状態が「加齢性難聴」といわれて、音を聴く能力の低下を招きます。
65歳を過ぎると3人に1人、75歳以上では7割以上の人が、この加齢性難聴だと言われています。
小さい音や、高い音つまり周波数の高い音から聴こえにくくなります。
最近身の回りで増えている電子音の「ピッピッ…」という音は人の声よりも周波数の高い音です。
なので携帯電話の着信音や、タイマーの音も気づきにくくなって来ます。
会話でも、子音は周波数が高くて母音は低いために、まず子音が聴き取りにくくなります。
「タニモト」が「アイモト」になったり、「サトウ」と「カトウ」を聞き違えたりします。
テレビの音量も次第に大きくなっていませんか。
そのような耳のトラブルを抱えておられる方々の耳が「硬い」のです。
加えて、耳周りの筋肉も硬いことが多く見られます。
耳たぶの下の首の筋肉を触って見て下さい。そこが柔らかければ、「耳」についての症状やトラブルは、ほぼありません。
そこには、総頚動脈が走っています。頭蓋内に血液を送る重要な血管です。
その総頚動脈からの分枝で内頚動脈があり、それが中耳や内耳に栄養を与えます。
中耳や内耳はとても小さい器官ですが、振動という物理的現象を、電気信号に変換して神経伝達する働きを担います。
そこには、たくさんのエネルギーが必要なようです。エネルギーを運ぶのは血液です。血流が影響します。
なので、総頚動脈の周囲を良好な状態に保つことで、「聴こえ」に好影響を与えるのではないかと思います。
指圧操作により、首や肩周りの筋肉を緩めていくことで、加齢性難聴に対して効果があります。
耳を、耳介を柔らかくすることも、耳への血流を促すことにもつながります。
冒頭の患者さんも、「聴こえやすくなった」と喜ばれて帰られました。